こんにちは。レティシアンスタッフのMです。
皆様は「さくらねこTNR(TNR先行型地域猫活動)」という活動があることをご存じでしょうか?
地域猫活動の一環として行われており、猫と人間が共生するための大切な取り組みのひとつです。近年、野良猫の増加やそれに伴うさまざまな課題が話題に上ることも増えていて、さくらねこTNRの重要性はますます高まっています。
今回のコラムでは、さくらねこTNRの活動内容とその必要性や社会的な影響などについてご紹介いたします。ぜひ最後までお付き合いください。
目次
「さくらねこ」について
「さくらねこ」とは、避妊・去勢手術を受けた猫の目印として、耳先をV字型にカットされた猫のことを指します。このカット後の耳の形が “桜の花びら” に似ていることから、こうした名前が付けられました。また、V字にカットされた耳は「さくら耳」とも呼ばれています。
この呼び名が誕生したのは2012年10月のこと。沖縄県石垣島で、公益財団法人どうぶつ基金様によって大規模な一斉TNRの活動が行われたときのことでした。公益財団法人どうぶつ基金様の理事長、そして石垣市長と雑誌『ねこ』の編集長による会談の中で、「さくらねこ」という呼び名が発案されました。
この名前には、「石垣島で花開いたさくらねこの前線を北上させ、日本全国に官民協働のTNR活動を普及させたい」という思いが込められているそうです。
耳先カットの方法と役割
耳先をカットすることで「猫たちが痛みを感じるのでは…」と心配される方もいらっしゃると思います。しかし耳先カットは、避妊・去勢手術時の全身麻酔がかかっている状態で行われるため、猫が痛みを感じることはありません。さらに、適切な止血処置もされるため、耳先カット後の出血はほとんどないそうです。
また、この耳先カットは、すでに手術を終えている猫であることを示すための大切な目印でもあります。同じ猫が再び捕獲されてしまうリスクを防ぎ、猫たちの負担を減らす役割も果たしています。
なお、カットされる耳の位置にはルールがあります。オス猫は右耳・メス猫は左耳がV字にカットされるので、手術を受けた猫の性別もひと目でわかるようになっています。
なぜ野良猫の繁殖を抑える必要があるのか?
野良猫が増加すると、鳴き声による騒音、マーキングによる悪臭、ゴミ荒らしや糞尿被害、交通事故や病気の蔓延など、さまざまな問題が増加してしまいます。
また、行き場を失った猫たちが保健所などに収容され、殺処分されるケースも後を絶ちません。特に “殺処分” の問題は深刻で、日本では年間約10万頭の猫が殺処分されており、そのうち約7割は生後間もない子猫です…。
こうした問題を解決するためには、野良猫の繁殖を抑える必要があります。
猫は交尾すればほぼ確実に妊娠する交尾排卵のため、非常に繁殖力が高いです。1匹のメス猫が年間に複数の子猫を産み、その子猫たちもさらに繁殖を繰り返すと、あっという間に野良猫の数が増えてしまいます。このため、さくらねこTNRの活動のように、避妊・去勢手術を施し、一代限りの命を全うさせることが必要とされています。
TNRについて
TNRとは、以下の頭文字からの略称で野良猫の繁殖を抑えるための活動を指します。
・Neuter(ニューター:避妊・去勢手術)
・Return(リターン:元の場所に戻す)
TNR活動では、地域で暮らす猫を一時的に捕獲し、避妊・去勢手術を施した後に元の場所に戻すことで、望まない繁殖を防ぎ、猫と人間が共生できる環境を整えることができます。
捕獲器の使用について
TNRを実施する際、野良猫を安全に捕獲するために専用の器具「捕獲器」を使用します。野良猫は警戒心が強いため、素手で捕まえようとすると逃げてしまうだけでなく、パニックを起こした猫が暴れて攻撃してきたり、無理矢理捕まえることで猫自身がケガをしてしまったりといった危険性もあります。猫の負担を最小限に抑えるためにも捕獲器を活用することが重要となります。
捕獲器は、無償で貸し出しを行っている地域の動物保護団体や自治体、動物病院もありますので、一度相談してみるのが良いと思います。
捕獲器を設置する際は、猫が警戒せずに捕獲器へ入れるよう、普段食べているごはんを中に置くなどの工夫が必要です。また、捕獲後は速やかに動物病院へ連れていく準備を整え、長時間捕獲器に閉じ込めないよう注意することが大切です。猫が捕獲器の中で暴れないよう、布やタオルで覆って落ち着かせてあげるとストレスを軽減することができます。
なぜ元の場所に戻すのか?
人馴れしすぎている猫や、まだ手術ができない子猫などは保護して里親を探す場合もありますが、長年野良猫として生きてきた猫は、人間に対する警戒心が強く、無理に保護するとかえってストレスとなり、病気の原因にもなりかねません。
また、すべての猫を保護できる施設や人手が足りないというのも現状です。1匹で生きていく力がある猫の場合は、手術を施したうえで元の場所に戻し、地域の人々が適切に見守る「地域猫(さくらねこ)」として暮らしていくことが望ましいとされています。
「成功の3原則」とは
TNRを成功させるために重要な「成功の3原則」というものがあります。
・即行(速やかに実施すること)
野良猫の数が急増する前に、迅速に対応することが求められます。
・徹底(すべての猫に手術を施すこと)
一部の猫だけではなく、地域内の猫すべてに避妊・去勢手術を実施することで、確実に繁殖を抑制することができます。
・継続(活動を継続して見守ること)
未手術の猫を見つけたらその都度、素早く対応していくなど、継続的な活動が大切です。
そして、こうした管理体制を維持することができれば、殺処分ゼロも目指すことができます。
さくらねこではない猫を見つけたら
耳先のカットがない場合でも、すでに避妊・去勢手術を受けている可能性があります(迷い猫や家で飼われている猫が外に遊びに出ているだけ、など)。このため、まずは首輪の有無や健康状態、毛並みなど、その猫の状況を確認し、本当にTNRが必要なのかどうかを判断することになります。個人で判断することが難しい場合は、地域の動物保護団体や自治体の担当窓口に相談することが適切です。
また、もし見つけた猫が迷い猫の可能性がある場合は、SNSや地域の掲示板、保健所、動物愛護センターに相談し、オーナー様を探すことも視野に入れましょう。
「さくらねこ無料不妊手術事業」について
公益財団法人どうぶつ基金様は、日本全国の野良猫の殺処分問題を解決するための活動を行っており、獣医師様や自治体、ボランティア団体と連携しながら、さくらねこTNRの推進や支援や啓発活動に力を入れています。
その取り組みのひとつに「さくらねこ無料不妊手術事業」があります。この事業では、公益財団法人どうぶつ基金様が発行する「さくらねこ無料不妊手術チケット」を利用することで、野良猫に無料で避妊・去勢手術を施すことができます。
「さくらねこ無料避妊手術チケット」は公益財団法人どうぶつ基金様のホームページから申請し、承認を受けた後に発行されます。取得したチケットを公益財団法人どうぶつ基金様と提携している動物病院に持参することで、野良猫に無料で避妊・去勢手術を施すことができます。手術費用が無料になることで、個人や自治体、ボランティア団体の負担を軽減でき、さくらねこTNRの活動推進に効果を発揮しています。
この取り組みには、多くの獣医師様や自治体、ボランティア団体が賛同し、公益財団法人どうぶつ基金様とともにさくらねこTNRの活動普及に努めています。こうした連携によって持続的なTNRの実施が可能となり、地域全体で野良猫問題に取り組む環境が整います。実際にさくらねこTNRの活動が進んだ地域では、野良猫の数が減少し、殺処分も大幅に減少するなど具体的な成果が出ています。
私たちができること
さくらねこTNRの活動を続けるためには、私たち一人ひとりの意識と行動が欠かせません。
さくらねこやTNRについて正しく理解して広めることはもちろん、ケガをした猫や体調の悪い猫を見かけた際に、地域の動物保護団体や自治体に相談することも、野良猫やさくらねこたちに対して私たちができる重要な活動です。
さらに、さくらねこTNRを行う団体は、手術・医療費やごはん代など、多くの資金を必要としています。ご紹介した公益財団法人どうぶつ基金様をはじめとする、さくらねこTNRの活動を行っている団体への寄付は、直接的な支援となります。また、ボランティアとしてTNRのサポートや情報発信を行うことも、さくらねこたちを直接支援する方法のひとつです。
地域全体で協力して活動することで、猫によるトラブルを減らすことができ、さくらねこたちの未来を守ることができます。この活動には、猫が好きな方だけではなく、猫が苦手な方の理解も必要です。猫が苦手な方にも配慮しながら、地域全体で共生できる環境を整えていくことが大切です。
まとめ
さくらねこTNRの活動は、猫を排除するのではなく、猫と人間が共生できる社会を目指す活動であることがわかりました。そして、猫たちが安心して暮らせる環境を整えることは、結果的に私たち人間にとっても快適で住みやすい街づくりにつながるのではないかと思いました。
もし、お住まいの地域でさくらねこを見かけたら、そっと見守りながら、地域の一員として優しく迎えてあげてくださいね。