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《獣医師コラム》これから子犬・子猫を飼う方へ 後編「子犬・子猫の社会化期:未来の幸せな暮らしのために」

こんにちは、レティシアン専属獣医師のKです。

獣医師コラム「これから子犬・子猫を飼う方へ」の〈前編〉では、
「 【1】子犬や子猫がおうちに来る前に」と題して、心構えや準備について解説しました。
《獣医師コラム》これから子犬・子猫を飼う方へ 前編「新しい家族を迎える前に知っておきたい基礎知識」

今回の〈後編〉は、いよいよ実践編。キーワードは「社会化期」です。
【2】子犬や子猫が来たら
【3】子犬や子猫が少し大きくなったら
あなたのおうちに子犬・子猫がやってきてからの重要なポイントについて解説いたします。

【2】子犬や子猫が来たら

おうちや心の準備が整ったら、いよいよ犬や猫をお迎えし、新しい生活をスタートしましょう。
犬や猫との毎日はとても楽しく、初めてのことばかりで充実した日々になることでしょう。それは犬や猫にとっても同じです。お互いに初体験の連続となる中で、ぜひ知っておいてほしい言葉が「社会化期」です。

社会化期とは?

犬は生後3~12週齢頃猫は生後2~8週齢頃が「社会化期」と呼ばれる期間にあたります。この子犬や子猫の時期は、他の動物や人間、音、環境といった外部の刺激に順応し、さまざまなことを積極的に学習する大切な時間です。
この社会化期に、ほかの動物や人、生活環境の音や匂いに慣れさせておくことは、将来の問題行動を防ぐ鍵となります。無理のない範囲で構いませんが、できるだけ新しい経験を与え、楽しい思い出を作ってあげましょう。
また、社会化期はトレーニングや習慣付けを始めるのに最適な時期でもあります。この時期に学んだことは成犬・成猫になってからも定着しやすいとされています。

社会化期におすすめのトレーニング

【犬・猫共通】

歯磨きトレーニング

子犬や子猫のうちから、口や歯に触れられることに慣らしておくと、歯磨きができるようになります。これにより、歯周病のリスクを大幅に軽減できるほか、定期的に口腔内を観察することで、発見が遅れがちな口腔内トラブルを早期に発見できるようになります。
トレーニングは無理をせず、最初は指で唇に触れることから始め、徐々に慣らしていくことがポイントです。

へそ天トレーニング

人の伸ばした足の間で仰向けになってもらう「へそ天トレーニング」も、歯磨きトレーニングと併せて行うと効果的です。このトレーニングにより、仰向けの姿勢に慣れることで、歯磨きやブラッシング、爪切りなどの日常ケアがこの体勢でスムーズに行えるようになります。
また、動物病院でレントゲンや超音波検査を受ける際にも、この姿勢が必要になる場合があります。トレーニングを通じてこの姿勢に慣れておくことで、病院でのストレスを軽減できます。

音トレーニング

花火や雷などの聞き慣れない大きな音を怖がる犬や猫は少なくありません。中には「パニックを起こす」「失禁や嘔吐をしてしまう」といった症状を見せる場合もあり、この状態は「雷恐怖症」と呼ばれます。
子犬や子猫のうちから、花火や雷の音、インターホンのチャイム音、緊急車両のサイレン音などが録音された音源を時々聞かせることで、これらの音に慣れさせることが可能です。
トレーニングは、最初は小さな音量から始め、徐々にBGM程度の音量まで上げていくことで、無理なく慣らしていきましょう。
YouTubeなどのインターネット上の動画投稿サイトにたくさんトレーニング用音源があるので、「子犬・子猫 音トレーニング」で検索してみてください。

【犬】

散歩トレーニング

犬とのお散歩は、オーナー様だけが体験できる特別な時間です。早く始めたい気持ちは理解できますが、他の犬と接するような本格的な散歩は、感染症予防の観点から初年度のワクチンプログラム寄生虫予防がすべて完了してからにしましょう。
しかし、予防関連がすべて終わるまで待っていると、大事な「社会化期」を逃してしまう可能性があります。そのため、まずは地面を歩かせず、オーナー様が抱っこをして近所を歩く「抱っこ散歩」から始めることをおすすめします。この方法でも、社会化期に必要な「さまざまな刺激に触れ、慣れる」という経験をすることができます。
抱っこ散歩を数回行った後は、他の犬と接触しないよう注意しながら、次のステップに進みます。

●おうちの前の道路に立たせる
●おうちの前を少しだけ歩かせる
●おうちの周りを少しだけ歩かせる

このように段階的に少しずつ慣らしていくことで、無理なくお散歩の練習ができます。

吠えトレーニング

犬の吠える声は、場合によっては騒音トラブルの原因となることがあります。吠えをコントロールするためには、正しい対処とトレーニングが必要です。吠える原因を理解し、適切な対応をすることで、犬が無駄に吠えることを防ぐことができます。

吠えに関する詳しい情報を知りたい方は、以下のコラムをご参照ください。
《獣医師コラム》“無駄”な吠えは存在しない!? ワンちゃんが無駄吠えしやすい6つのシチュエーションと無駄吠え対策 前編
《獣医師コラム》“無駄”な吠えは存在しない!? ワンちゃんが無駄吠えしやすい6つのシチュエーションと無駄吠え対策 後編

他の犬と接するトレーニング

動物病院やさまざまな動物関連施設で実施されている「パピークラス」「パピーパーティ」と呼ばれるイベントは、子犬の社会化や基礎的なしつけをまなぶことを目的とした集まりです。社会化期の子犬が他の犬との適切な接し方を学ぶトレーニングに最適です。
パピークラスは「しつけ」を中心としたものが多く、パピーパーティは「社会化」を重視した内容が特徴的ですが、どちらも同年代の子犬と交流できる非常に良い機会です。
気になる方は、お近くの施設で実施されているイベントを調べてみてください。

落ち着いたら病院に連れていく

おうちに迎えた犬や猫が新しい環境に慣れ、落ち着いたら、体調が良くても動物病院に連れて行きましょう。社会化期の間に動物病院に慣れさせておくことで、いざというときの通院がスムーズになります。

動物病院を「体調が悪いときに行く」「ワクチンを接種する場所」だけにしてしまうと、愛犬・愛猫が「怖い場所」「嫌な場所」というイメージを抱いてしまう可能性があります。そこで、体調が良いときにも定期的に動物病院を訪れ、体調チェックを兼ねてスタッフからおやつをもらったり、一緒に遊んでもらったりして、動物病院を好きになるきっかけを作ってあげてください。
動物病院には犬や猫に関するプロフェッショナルである獣医師や愛玩動物看護師がいます。正しい抱っこの仕方から、さまざまなトラブルの解決策まで、不安なことや気になることがあれば、何でも気軽に相談してみましょう。
健康診断やワクチン接種、万が一の病気やケガに備え、信頼できる動物病院をかかりつけとして選び、子犬や子猫の頃からしっかりとケアを受けられる環境を整えておくことが大切です。

【犬・猫共通】

混合ワクチンの接種

混合ワクチンの接種は法律で義務付けられていませんが、犬や猫にとって致死率の高い病気や、人間にも感染する恐れのある病気を予防するために推奨されています。また多くペットホテルやドッグランなどの犬や猫のための施設では「混合ワクチンを接種していること」が利用条件になっています。せっかく遊びに行ったのに施設に入れない・・・などのトラブルを避けるためにもワクチン接種は忘れずに行いましょう

ワクチンに関する詳細は、以下のコラムをご参照ください。
《獣医師コラム》【犬猫の予防注射について】~毎年打っているけど、そもそも予防注射って何を予防しているの?~

ノミやダニなど寄生虫の予防

定期的に外に散歩に行く犬にとって「寄生虫予防」は非常に重要です。寄生虫には、感染すると死に至るものや、人間にも感染するものがあります。そのため定期的な予防を徹底しましょう。

詳しくは以下のコラムをご参照ください。
《獣医師コラム》【犬の寄生虫】愛犬や自分に感染する恐れがある寄生虫とその対策!

猫も完全室内飼育であったとしても、人が外から寄生虫を持ち込む、同居している犬や動物病院に行った際に感染するなどのリスクがあります。さらに、蚊を媒介とする寄生虫も存在するため、室内飼いの猫でもしっかり寄生虫予防を行うことが推奨されます。

日常的な記録の習慣づけ

病院で健康チェックを受けた後は、自宅でも体重や食事量、排泄の様子、元気の有無を定期的に記録する習慣をつけましょう。
この記録があることで、「うちの子、今日少し変だな」と感じた際に、具体的なデータが獣医師にとって診断の助けになります。
例えば、食事量の変化や排泄の回数について、「普段は1日に〇回〇グラムずつ食べているのに今日は〇グラムしか食べていない」や「いつもは午前に〇回、午後に〇回おしっこをするのに今日はまだ〇回しかしていない」と具体的に伝えることで、生理的な変化なのか、病的な変化なのかを判断してもらいやすくなります。
日常的な記録は、小さな異変の早期発見・早期治療に役立つだけでなく、定期的な健康診断ワクチン接種スケジュール管理にも有用です。

【犬】

狂犬病ワクチンの接種

「狂犬病予防法」に基づき、日本では 飼い犬には年に1回、狂犬病予防注射を受けさせることがオーナー様の義務とされています。
狂犬病は致死率の高い病気です。このワクチン接種は犬自身の健康を守るだけでなく、人や他の動物への感染を防ぐためにもとても重要です。

飼い犬の登録と鑑札・注射済票の取得

狂犬病予防注射が完了したら、速やかに居住している市区町村で飼い犬の登録を行う必要があります。登録を完了すると、鑑札注射済票が交付されます。これらは犬の首輪などに装着することが法律で義務付けられており、犬の身分証明書としての役割を果たします。鑑札と注射済票の装着を忘れずに行いましょう。

ワクチン接種や登録手続きについての詳しい情報は、
上記の「《獣医師コラム》【犬猫の予防注射について】~毎年打っているけど、そもそも予防注射って何を予防しているの?~」や、以下のリンクをご参照ください。
厚生労働省|狂犬病予防に関する情報

【猫】

FIV、 FeLVの検査

猫をお迎えしたら、体調が良くても早めに動物病院で「FIV(猫免疫不全ウイルス)」「FeLV(猫白血病ウイルス)」の検査を受けさせることをおすすめします。これらのウイルス感染症は、猫の健康に大きな影響をおよぼす可能性があるため、早期の検査が重要です。

検査を受けるメリット
●健康状態の早期把握
FIVとFeLVは、どちらも感染が進行するにつれて免疫機能を低下させ、他の感染症や病気に対する抵抗力が弱くなる病気です。早期に感染が確認できれば、適切なケアや生活環境を調整することで、猫の生活の質を向上させることができます。

●他の猫への感染予防
多頭飼育の場合や、外出する猫の場合、感染した猫から他の猫への感染を防ぐために重要な情報となります。感染が確認された場合、接触を避けたり、感染リスクを最小限に抑えたりするための対策を講じることができます。

●治療や予防対策の計画
早期に感染がわかれば、免疫をサポートする治療や、感染が重症化しないような予防的ケアを計画できます。これにより、病気の進行を遅らせ、猫が快適な生活を送ることが期待できます。
これらの検査は、獣医師と相談しながら適切なタイミングで受けることが大切です。
またFIVやFeLVの感染リスクを減らすためには、完全室内飼いを徹底し、感染源との接触を防ぐことも非常に有効です。

【3】子犬や子猫が少し大きくなったら

子犬・子猫の時期はあっという間に過ぎてしまい、最初は小さかった体も、次第に大人の体格に近づいていきます。この成長のタイミングで考えておきたいことや注意したい点についてご紹介します。

【犬・猫共通】

去勢・避妊手術の検討

子犬や子猫が家に来てから3~4か月が経過すると、最初の発情期を迎える子もいます。人間に置き換えると早いと感じるかもしれませんが、この時期に犬や猫は子供を作ることができる状態になります。
実際に子どもを作る予定がない場合は、健康面のメリットを考えて避妊・去勢手術を検討してください。

具体的なメリット
●望まない繁殖を防ぐ
犬の場合、散歩中やドッグランで他の犬と接する機会が多いため、繁殖を望まない場合はトラブル防止のために手術が有効です。
猫の場合、室内飼いであっても発情期によるストレスや、出会いを求めた脱走などのリスクを軽減できます。

●特定の病気を予防する
避妊・去勢手術により、子宮蓄膿症や精巣腫瘍などの生殖器に関連する病気のリスクを大幅に低下させることができます。特に女の子の場合、2回目の発情期までに避妊手術を行うことで、乳腺腫瘍のリスクが大きく減少します。

●問題行動の軽減
未避妊・未去勢の犬や猫は、性ホルモンの影響で特定の問題行動を起こしやすくなります。早期に避妊・去勢手術を行うことで問題行動が習慣化せず、次のような効果が期待できます。

〇同居の動物を含む自分以外の動物への攻撃行動の抑制
〇発情期のストレスがなくなることによる落ち着きの向上
〇特に猫の女の子に見られる大きな声でのアピール鳴きの減少
マーキングや尿スプレー行為の減少
マウンティング(腰振り)行為の減少

適切な手術のタイミングは、通常生後6~12ヶ月頃が推奨されますが、犬種や猫種、健康状態によって異なるため、かかりつけの獣医師に相談することが大切です。

慣れた頃に注意したい「誤食」

新しい環境に慣れ、運動能力が向上してくると、今まで届かなかった場所にアクセスできるようになります。さらに、顎や筋肉が発達することで、これまで壊せなかったものを壊してしまうケースも増えてきます。
一方で、オーナー様側が慣れから気を抜いてしまうこともあり、この時期は誤食事故が発生しやすくなる傾向があります。特に台所には、犬や猫にとって有毒となる食べ物や危険なものが多いため、物理的にアクセスを制限する対策が効果的です。

対策例
●台所にベビーゲートドアロックを設置する
●食材や調理器具を収納し、犬や猫が触れられない環境を作る

犬にとって危険な食べ物に関する詳細は、以下のコラムをご参照ください。
《レティシアンコラム》【愛犬にとって “危険なもの” とは】食事中やお散歩中に要注意なものとは

猫も同様のものに注意しましょう。

【犬】

散歩の注意点

ワクチンや寄生虫対策が済んだらいよいよ本格的なお散歩開始です。散歩は犬の社会化健康維持に重要な役割を果たします。初めての場所や他の犬との接触を慎重に行い、楽しい経験にしてあげることが重要です。散歩中は犬から目を離さず、拾い食いや迷惑行為に注意しましょう。

●時間の目安
犬のサイズに関わらず、散歩はすべての犬に必要です。
〇小型・中型犬:30~60分
〇大型犬は60分以上
これを目安に、1日2回の散歩を心がけましょう。

●首輪とハーネス
脱走事故を防ぐため、首輪とハーネスの両方をつけたダブルリードで散歩を行うことをおすすめします。

●首輪のゆとり
指2本分が目安(きつすぎると首や気管に負担がかかり、緩すぎると脱走の原因に)。実際に装着し、首輪を引っ張り、背中側が耳の位置まで動く場合は緩すぎるので調整してください。

●ベルト幅
広めのものを選ぶと、首への負担が小さく安心です。

●熱中症防止
犬は私たちよりも地面に近い位置を歩くため、春や夏の散歩では、地面からの照り返しや熱の影響を強く受けます。その結果、私たちが感じる以上に高温の環境下にさらされることになります。熱中症や肉球のやけどを防ぐため、散歩前に地面を触り、熱くなりすぎていないかを確認してください。早朝や日没後などの涼しい時間帯に散歩をするのも、リスク軽減に有効です。

●ウンチとおしっこの処理
排泄物の処理を徹底し、周囲への配慮も忘れないようにしてください。

硬いおやつに注意

鹿の角や一部の硬すぎるおやつは、歯が欠ける原因になることがあります。また、噛み切れずに丸飲みすると腸閉塞などのリスクが高まります。
おやつを選ぶ際は獣医師に相談することをおすすめします。簡単な基準として、「ハサミで切れないおやつは与えない」というルールを参考にしてください。

【猫】

お風呂場の危険

風呂場では、猫が浴槽に落ち、おぼれてしまう事故が起きることがあります。浴槽の壁は滑りやすく、パニックに陥った猫は自力で脱出できなくなることがあります。
また、風呂場に置かれたシャンプー類や漂白剤入りの水を飲んでしまう事故も報告されています。これらのリスクを防ぐため、猫を風呂場に入れないようにしましょう

ドア挟まれ事故防止

猫はドアに興味を持ちやすく、遊んでいる最中にドアが閉まり、体を挟まれる事故が発生することがあります。ドアストッパーを設置して、事故を防ぐ環境を整えましょう。

うっかり閉じ込め事故に注意

扉を開けた隙に猫がスルリと入り込むことがあります。気づかずに扉を閉めてしまい、そのまま外出すると、猫が熱中症脱水症状になる可能性があります。
●扉の開閉後に猫を閉じ込めていないかを確認する習慣をつけましょう。
●外出前には、猫の姿を目視で確認することを徹底してください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。子犬・子猫を飼い始める方に向けて知っておいてほしいことや、覚えておいてほしいことについて、前回から2回にわたって解説させていただきました。
犬や猫を飼うという選択は、私たちに多くの喜びを与える一方で、大きな責任を伴います。「終生飼養 」という言葉を忘れず、彼らの一生を通して最善のサポートができるよう、計画的な準備と日々のケアを心がけましょう。
このコラムが、新しい家族を迎えるための一助となり、新しい家族との素晴らしい日々を大切に育んでいただけたら幸いです。

 

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