
こんにちは。レティシアン専属獣医師のKです。
前回の「猫の食性」コラムに続き、今回は「犬の食性」についてお話させていただきます。
似ているようで違う食性の特徴を、犬にまつわる豆知識や犬と猫の比較を交えながらわかりやすく解説していきます。
「猫の食性」についてはこちらをご参照ください。
《獣医師コラム》【猫の食性】猫は本当に飽きっぽい? 新しいもの好き&食わず嫌いな理由とは?
目次
「食性」とは単なる好き嫌いの話ではありません
前回のコラムを読んでくださった方はもうご存じかもしれませんが、獣医学的にいう食性とは、「その動物がどのような食べ物に適応してきたか、どんな栄養の摂り方をする体のつくりをしているか」という意味となります。
単に「何が好きか」という好みの話ではなく、体の仕組みの話なのです。
犬の食性を語るうえで欠かせないキーワードがこちらです。
【1】幅広い嗜好を持つ “肉食寄りの雑食動物”
【2】食いだめができる
【3】食べ飽き・食べムラについて
今回はこうした犬の食性を語るうえで欠かせないキーワードに沿ってお話していきます。
犬の食性【1】幅広い嗜好を持つ “肉食寄りの雑食動物”

猫たちは、植物由来の食べ物だけの食生活では一部の栄養素が不足してしまうため、「真性肉食動物」と呼ばれています。
分類学上、犬は「ネコ目(食肉目)」に分類される動物ですので、猫と同じように肉食動物だと思われがちですが、植物由来の栄養素も体内で利用できるため、体のつくりや機能(食性)においては、私たちヒトと同じ「雑食動物」に分類されます。
しかし、ヒトなどのような典型的な雑食動物とはまた食性が異なり、「真性肉食動物」に近い特徴も持ち合わせているので “肉食寄りの雑食動物” であるとされ、肉食傾向の強さから「適応型肉食動物 adaptive carnivore」と呼ばれることもあります。
真性肉食動物である猫、典型的な雑食動物であるヒトなどと比べると、ちょうどその中間にいるような特徴を持っています。

なぜ犬は「幅広い嗜好」を持っているの?
犬の祖先であるオオカミも食性上は「雑食動物」ではあるのですが肉食傾向が特に強く、食事のほとんどが狩りによって仕留めた獲物で占められていました。
もともとは野生で暮らしていた犬の祖先が次第に人間と一緒に暮らすようになり、「家畜化」と呼ばれる過程を経て徐々に嗜好の幅が広がっていったと考えられています。
家畜化の初期段階では、犬は人間の住居の周りで食べ物を漁って生きていたとされており、人間の残飯が主な食料源でした。このため “動物性の食べ物に限らず何でも食べられる” という特徴を持つことが、食べ物にありつけるチャンスを逃さずに生き残っていくために必要であったのではないかという説が有力です。
<犬の味覚> 犬にとっての美味しさとは?
犬は人間と同じく「苦味・甘味・酸味・塩味・旨味」を感じることができます。
犬と猫の比較をしてみると、猫は甘味を感じないといわれていますが、犬は甘味を好む傾向があります。
そして猫は苦味のある食べ物を強く避ける傾向があるのに対し、犬は苦味に対して比較的鈍感だと言われています。
また、犬は肉食傾向が強いため、肉の風味成分であるリジン・L-プロリン・L-システインといったアミノ酸や、ヌクレオチドとグルタミン酸ナトリウムの組み合わせによって生じる旨味にも敏感に反応することが分かっています。
さらに、様々な研究から犬の食性について以下のような傾向が分かっています。
・豆類などの植物性タンパク質よりも、肉や魚などの動物性タンパク質を好む
・牛肉、豚肉、ラム肉、鶏肉、馬肉の順に好む
・ドライフードよりも、ウェットフードやセミモイストフードを好む
・生の肉よりも、調理された肉を好む
ウェットフードやセミモイストフードを好むのは、ドライフードよりも食感が肉に近いからだと考えられており、生の肉よりも調理された肉を好むのは、人間と一緒に暮らすようになった家畜化によって生まれた傾向なのではないかと考えられています。
<豆知識>カラフルなドッグフード、犬にはどう見えている?
ドッグフードの中には、色とりどりで見た目が華やかなものもあります。
つい「美味しそう」と感じてしまいますが、実はこの「見た目の良さ」は主に人間に向けたものと考えられています。
犬の視覚は人間とは異なり、「青〜黄色系」は見分けられるものの、「赤〜緑系」の色の違いは識別しにくいとされています。
そのため、人間のように細かい色の違いを楽しんでいるわけではなく、犬にとって食べ物の魅力は色よりも香りや味の影響が大きいと考えられています。
具体的には香り(嗅覚)で食べてみるかどうかを判断、硬さや大きさ(触覚)で食べ物の硬さや大きさを判断、味(味覚)で食べ続けるかを判断するとされています。
もちろん、見た目がまったく関係ないというわけではありませんが、「食材の “色” の影響度は人間よりもかなり小さい」という点は覚えておくと良いかもしれません。
犬の食性【2】食いだめができる

前回のコラムで「猫は少量頻回の食事を摂る」とお話しましたが、犬と猫の比較をみるとその違いははっきりします。犬は猫と異なり一度に大量の食事を摂る「食いだめ(ドカ食い)」ができるという特徴があります。
犬の祖先であるオオカミは群れで狩りを行い、仕留めた獲物を取り合うように競って食べていました。このため素早く大量の食事を一気にドカ食いできるよう、消化器系が特殊な進化を遂げたと考えられています。
その特徴が犬にも受け継がれ、ペットとして私たちとともに生活する犬も、わずか数分で1日分のカロリーに相当する食事を平らげてしまうポテンシャルを秘めています。
ただしこれは「空腹に特別に強い」という意味ではありません。しばらく食べていないとおなかが鳴って空腹を感じたり、空腹で吐いてしまったりすることも一般的です。
<豆知識>犬も「犬舌」? 温度で食いつきが変わる?
「猫舌」という言葉がありますが、実は猫に限らず、多くの動物は極端に熱い食べ物を好まない傾向があります。野生では体温に近い温度の食べ物を口にすることが多いことを考えると、これは自然な反応とも言えるでしょう。
雑食傾向のある犬の食事も適温があり、15℃以下の冷たすぎるもの、50℃以上の暑すぎるものは食いつきに影響することがあります。
犬の食事というと「味」や「栄養バランス」に目が行きがちですが、実は「温度」も食いつきに大きく関わる要素のひとつなのです。
犬は人よりも嗅覚が発達しており、食べ物を「ニオイ」で判断する割合が高い動物です。
そのため、食事が温まることで香りが立つと、それだけで食欲が刺激されることがあります。
たとえば、冷蔵庫から出したばかりのウェットフードよりも、人肌程度に軽く温めたフードのほうがよく食べるというケースは少なくありません。
特に以下のようなケースでは「少し温める」というシンプルな工夫が有効な場合がありますのでお試しください。
・食欲が落ちているとき
・シニア犬
・環境変化で食べが悪くなっているとき
※熱すぎる温度はやけどのリスクがあるため、人肌程度を目安にしましょう。
犬の食性【3】食べ飽き・食べムラについて

「愛犬がすぐフードに飽きてしまう」「おやつ・トッピングがないとフードを食べてくれない」そんなお悩みを持つオーナー様も多いのではないかと思います。
先ほどお伝えしたとおり、犬は人間と一緒に暮らすようになってから「肉が主体ではあるが、選り好みせず何でも食べる」という雑食的な食性を身につけてきました。つまり本来であれば「あまり好みに合わない食事でも、おなかが空いていたら食べる」傾向があるはずなのです。
では、なぜ愛犬の食べ飽きや食べムラに悩むオーナー様が多いのでしょうか?
その理由の1つとして、私たち人間が愛犬のためを思って行う「毎日の食事の与え方」が、少しずつ食べ飽き・食べムラを習慣づけてしまっている可能性があります。
[原因1] ネオフィリア(新しいもの好き)
前回のコラムでは、猫に「ネオフィリア(新しいもの好き)」「ネオフォビア(新奇恐怖症)」の特徴があるとお話しました。猫ほど顕著ではないのですが、これらの特徴は犬も持っていて、食べ飽きや食べムラの一因となっていることがあります。
犬に新しいフードを与えるとネオフィリアによって一時的に食欲が増したように見えます(食いつきがよくなったように見えます)。しかし、ネオフィリアは一般的に数日間しか持続しないので、数日経つと初日のようなフードをガツガツと食べる様子がみられなくなります。
この「新しい食事に対して一時的に強い興味をもち、数日で落ち着く」という犬の生態としては正常な反応が、人間の視点からみると「フードに飽きてしまった」ように見えてしまうため、初日の食いつきをキープしようとして頻繁なフードのローテーションを行ってしまうことで食べムラが常態化してしまいます。
[原因2] 「待っていればもっと美味しいものを出してくれる」という学習
愛犬が主食のフードをあまり食べてくれないときにフードにトッピングをしたり、食欲を刺激しようとおやつを与えたりすると、これが「フードに口をつけずに待っていればもっと美味しい食べ物を出してくれる」という学習につながり、フード単体では食べてくれなくなってしまうことがあります。
犬は「美味しい食べ物」や「オーナー様に褒められる」といった報酬を、「報酬を得られた直前にとった行動」と結びつける性質があります。
この場合、トッピングやおやつといった報酬が、直前に愛犬がとった「フードを食べない」という行動と結びつけられてしまうため、「フードをしっかり食べて栄養バランスの整った食生活を送ってほしい」と思ってオーナー様がとった行動が逆効果となってしまうのです。
「フードを食べてもらうためにおやつを使う」のであれば、
フードを食べる “前” ではなく “後” に使うことをおすすめします。
そうすることによって「フードを食べなければご褒美がもらえる」という学習を「フードを食べるとご褒美がもらえる」という学習で上書きしてあげることができます。
おやつを使わなくても「よく褒めてあげる」ことが愛犬にとって嬉しいご褒美となります。
毎日フードを食べることを当たり前にせず、愛犬がフード完食してくれたら大げさなくらいよく褒めてあげることを習慣にしてあげましょう。
<豆知識>「上下関係のために『待て』をさせる」のは正しい?
「犬はオーナーとの上下関係を意識する動物だから、食事の前に『待て』をさせるべき」
「オーナーが先に食べて、犬は後にすることで関係性がはっきりする」
こうした考え方を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
これらはかつては正しいと広く信じられていましたが、近年の動物行動学では誤った考え方とされています。
現在では、犬の行動は上下関係だけで説明されるものではなく、「どんな行動をすると、どんな結果が得られるか」という学習の積み重ねによって形成されると考えられています。
・待てをするとごはんがもらえる
・落ち着いていると褒められる
こうした経験を通して、犬はその時々にどんな行動を取ると良いのか学んでいきます。
そのため、「待て」という指示自体は有用ですが、それは上下関係を示すためではなく、落ち着いて食事をとるためのトレーニングとして活用されるものです。
また、「オーナーが先に食べている様子をあえて見せる」といったやり方についても、
犬にとっては混乱やストレスにつながる可能性があり、推奨される方法ではありません。
むしろ、食べ物を要求する懇願行動を示す犬の場合、
・犬に先に食事を与える
・人が食事を行う時間は犬を別室に移動させる
という、過去の定説と逆の順番での給餌が推奨されます。
大切なのは、「支配する・される」という関係ではなく、
安心して食事ができる環境を整え、望ましい行動を学習させていくことです。
まとめ
前回に引き続き、今回は犬の「食性」についてお話させていただきました。
犬と猫の比較をまじえたため、それぞれの “似ている点” と “異なる点” がお伝えできたのではないかと思います。
犬という動物種の食性を理解してあげること、愛犬の視点になって考えてあげることで、愛犬の食事に関する疑問やお悩みが解決できるかもしれません。
<参考文献>
Applied Veterinary Clinical Nutrition 2nd edition(Andrea J. Fascetti著、John Wiley & Sons,inc、2024年)
Small Animal Clinical Nutrition 5th edition(Michael S. Hand, Craig D. Thatcher, Rebecca L. Remillard, Phillip Roudebush and Bruce J. Novotny著,Mark Morris Institute、2010年)
Nutrient Requirements of Dogs and Cats(National Research Council、2006年)
Small Animal Veterinary Psychiatry(Sagi Denenberg著、CABI,2021年)
The role of olfaction in canine food preferences(Katherine A.Houpt、1978年)
ザ・ドメスティック・ドッグ 犬:その進化、行動、人との関係(ジェームスサーペル著、森裕司監修、チクサン出版社、1999年)