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《獣医師コラム》意外と知らない【療法食】普通のペットフードとの違いは?病院でしか買えない理由とは

こんにちは。レティシアン専属獣医師のS です。

ワンちゃん・ネコちゃんを飼っている皆様、ペットフードの一種に「療法食(りょうほうしょく)」と呼ばれるものがあることをご存じでしょうか?

名前は聞いたことがあっても、普通のペットフードとの違いについては意外と知られていないことが多いように思います。

実際にオーナー様とお話していると、療法食について以下のようなご質問をいただくことがあります。

・「病気になったときに食べる薬のようなものですか?」
・「どんな種類効果があるんですか?」
・「どうして動物病院でしか売っていないのですか?」

今回のコラムでは、知っているようで意外と知らない「療法食」について、獣医師の立場からわかりやすく解説していきます。

療法食は「 特別な栄養バランスに調整されたペットフード」

実は「療法食」という言葉ですが、法律上の正式な用語ではなく、明確な定義が決まっているわけではありません。

しかし、ペットフードの安全基準を定める民間団体では、以下のように説明しています。

 

①一般社団法人ペットフード協会
「特定の疾患や疾病などに栄養的に対応するために栄養バランスが考慮され、専門的なアドバイスや処方に従って与えることを意図したペットフードです。」

②ペットフード公正取引協議会(PFFTA)
「栄養成分の量や比率が調節され、特定の疾病又は健康状態にあるペットの栄養学的サポートを目的に、獣医療において獣医師の指導のもとで食事管理に使用されることを意図したものをいいます。」

 

つまり、療法食とは、

ワンちゃん・ネコちゃんが病気や体調不良で、食事管理が必要だと獣医師が判断した際に使用される、特別な栄養バランスに調整されたペットフード

こう考えるとわかりやすいでしょう。
ちょうど人間でいう「療養食(※1)」に近い概念です。

(※1)療養食とは … 糖尿病や腎臓病など、健康上の管理が必要な人のために栄養成分を調整した食事のこと。医師や管理栄養士の指導のもとで提供されます。

ペット用の療法食は、“獣医師の指導のもとで使用する” ことを前提に設計されています。このためまずは動物病院で診察を受け、その子に適しているかどうかを確認してもらう必要があります。
ただし、療法食は医薬品とは異なり、処方箋が必要なわけではありません。初回の診察以降には診察なしで購入できる場合も少なくありません。

少し複雑に感じるかもしれませんが、
「最初に獣医師が適切かどうかを判断し、その後は継続的に購入できる」
という仕組みというとわかりやすいでしょうか。

なお、療法食には「特別療法食」といった名称のものもありますが、これはペットフード会社による呼び方の違いであり、基本的に同じものと考えて問題ありません。

療法食にはどんな種類があるの?

ワンちゃん・ネコちゃんの病気や健康状態によって、必要となる栄養素や理想的な栄養バランスは大きく異なります。また、同じ病気であっても進行度や個体差によって、適した栄養バランスが異なる場合もあります。

そのため現在では、各メーカーから多種多様な療法食が販売されています。
ここでは代表的な病気ごとに、療法食の特徴をわかりやすくご紹介します。

1. 慢性腎臓病

腎臓は体の老廃物を尿として排泄する重要な臓器ですが、慢性腎臓病になってしまうとその働きが徐々に低下してしまいます。

リンの制限
リンはミネラルの一種で、血液によって全身に運ばれた後に、体に必要な分だけを残して腎臓から尿中に排泄されます。
しかし、腎臓の機能が低下するとリンをうまく排泄できず、血液中にリンが蓄積してしまうことがあります。リンの過剰は、体のミネラルバランスを崩し、体調不良や臓器へのダメージにつながります。

慢性腎臓病用の療法食では、リンの含有量を制限することで病気の進行を遅らせ、生存期間の延長に役立つことが多くの研究で示されています。

タンパク質の制限
食事から摂取したタンパク質の一部は、代謝の過程で「尿毒症物質」という老廃物になります。本来であれば腎臓から排泄されますが、腎機能が低下していると体内に蓄積し、体調や全身の臓器に悪影響を与えます。
そのため腎臓病用の療法食では、タンパク質の量を適切に調整し、尿毒症物質の蓄積を抑える工夫がされています。

(参考)
≪獣医師コラム≫【泌尿器疾患①】ワンちゃん・ネコちゃんの「腎臓病」について-慢性腎臓病の食事管理

2. 消化器疾患(下痢・便秘など)

下痢や便秘といった消化器のトラブルは、一時的なものから継続的な食事管理が必要となるものまで、さまざまです。

消化に負担をかけない栄養設計
人間がおなかの調子が悪いときにおかゆなどの消化にやさしい食事を摂るのと同じように、消化器疾患のワンちゃん・ネコちゃんでも「消化に負担をかけない」食事を摂ることが重要です。
消化器疾患用の療法食では、原材料や栄養バランスを厳選し、消化しやすい炭水化物・タンパク質・脂質を利用して作られています。また、膵炎など脂肪の摂取が悪化の原因になる病気の場合に備え、低脂肪に調整されているフードもあります。

食物繊維のバランス
食物繊維には、水に溶ける「可溶性食物繊維」と、水に溶けない「不溶性食物繊維」があります。
可溶性食物繊維は便の水分を増やし、不溶性食物繊維は便の体積を増やして腸を刺激することで、どちらも便通改善に役立つとされています。
ただし、食物繊維は不足しても摂りすぎても下痢や便秘の原因となるので、症状や体質に合わせたバランス調整が必要です。

3. 食物アレルギー

食物アレルギーは、特定のタンパク質に対して体がアレルギー反応を起こしてしまう病気で、皮膚のかゆみや胃腸炎などの消化器症状を発症します。

アレルギーの原因となるタンパク源を避ける
アレルゲン(原因となるタンパク質)は個体ごとに異なります。
そのため療法食では、使用するタンパク源を限定し、アレルギーの原因を避けやすいよう工夫されています。

加水分解タンパク質の使用
タンパク質をあらかじめ細かい分子(ペプチドやアミノ酸)に分解しておくと、体がアレルギー反応を起こしにくくなることがわかっています。一部のアレルギー用療法食では、加水分解タンパク質が使用されています。

消化の良い炭水化物
食物アレルギーの症状の1つに胃腸炎があります。胃腸炎のときはできるだけ消化に負担をかけたくないので、消化の良い炭水化物が使われることがあります。

抗炎症に配慮した栄養設計
皮膚の炎症は、食物アレルギーで最も多く見られる症状のひとつで、強いかゆみの原因となります。
そのため、食物アレルギー用の療法食の中には、オメガ3脂肪酸など、皮膚の健康維持や炎症に配慮した栄養素を配合し、体の内側から健康な皮膚環境をサポートする設計のものもあります。

(参考)
《獣医師コラム》夏は皮膚トラブルの季節?!ワンちゃんの【アレルギー性皮膚炎】を徹底解説!-食物アレルギー対策におすすめのフード

4. 糖尿病

炭水化物の量や種類の調整
糖尿病では、本来血糖値を下げる役割を持つ「インスリン」というホルモンの作用が低下し、食後に血糖値が急上昇しやすくなります。血糖値が高い状態が続くと、元気がなくなったり、食欲が低下したり、血管・神経がダメージを受けたり、さらには重い合併症につながるおそれもあります。
「糖」と聞くと、砂糖を思い浮かべがちですが、そればかりではありません。実は米・小麦・いも類・豆類などに多く含まれる “糖質”(=食物繊維を除いた炭水化物)が消化・吸収されると、最終的に糖になり、血糖値を上げてしまいます。
糖尿病をケアする療法食では、食後の血糖値がゆるやかに上昇するように、炭水化物の量や種類を調整しています。血糖値の急激な上昇を抑えながら、安定した栄養供給ができるように設計されているのが特徴です。

5. 尿石症(ストルバイト結石症)

尿石症は腎臓や膀胱に結石ができてしまう病気で、「シュウ酸カルシウム結石」「ストルバイト結石」など、結石の種類によって特徴が異なります。
結石の種類によっては、適切な食事管理をすることで溶かして小さくすることができます。

ワンちゃん・ネコちゃんの結石症に多いストルバイト結石は、溶かすことができる結石の一種で、療法食が治療に重要な役割を果たします。そのため、このコラムでは「ストルバイト結石症の療法食」について説明します。

尿のpH(酸性・アルカリ性の度合い)への配慮
ストルバイト結石は、尿がアルカリ性に傾くと形成されやすく、尿を酸性側に近づけることで結石が小さくなることが知られています。
このためストルバイト結石用の療法食では、アミノ酸やミネラルのバランスに配慮し、尿を弱酸性に保つことをサポートしています。

結石の材料となるミネラル量の調整
ストルバイト結石は、マグネシウムなどのミネラル成分が尿中で結晶化してできる結石です。療法食では結石の材料となりやすいミネラル(特にマグネシウム)の含有量を適切に調整し、結晶が形成されにくい尿環境づくりに配慮しています。

(参考)
≪獣医師コラム≫【泌尿器疾患②】ワンちゃん・ネコちゃんの「下部尿路疾患」について

6. 肥満の体重管理

カロリー量に配慮した設計
肥満は「摂取カロリーが消費カロリーを上回る状態」が続くことで起こるため、体重管理では、摂取カロリーを抑えることが重要です。しかし、食事量を単純に減らしてしまうと、エネルギーだけでなく、健康維持に必要な栄養素まで不足してしまうおそれがあります。
体重管理用の療法食では、同じ量を食べても摂取カロリーが抑えられるように設計(カロリー密度を低く)しつつ、必要な栄養素はしっかり摂れるよう栄養バランスが調整されています。

食物繊維の増量
食物繊維は、消化されずに便として排泄されます。特に水溶性食物繊維は水分を含んで膨らみ、満腹感をキープすることで、食べ過ぎを防ぎ健康的な体重管理に役立ちます。

なぜ療法食は動物病院でしか買えないの?

前述のとおり、療法食には多くの種類があり、同じ病気や同じ症状であっても、ワンちゃん・ネコちゃんの体質や病状によって選ぶべきフードは異なります。

さらに、療法食はそれぞれの病気に合わせて栄養バランスを「あえて偏らせている」フードです。適切に使用しないと、かえって健康を損なってしまう可能性もゼロではありません。

そのため「どの療法食が適切なのか」「どのように与えるべきか」という点については、必ず獣医師がワンちゃん・ネコちゃんの状態を確認して判断する必要があるのです。

多くの療法食が動物病院やペットフード会社公式サイト、一部の認定販売サイトでしか販売されていないのは、獣医師の指導のもと正しく使ってもらい、ペットの健康を守るための仕組みであるとご理解ください。

まとめ

療法食は、ワンちゃん・ネコちゃんの病気や健康状態をサポートし、症状の改善や進行の抑制に役立つ大切なフードです。一方で、その効果を正しく引き出すためには、療法食の特徴やペットの病態を踏まえた適切な選択が欠かせません。

愛犬・愛猫の体調に気になる点がある場合は、自己判断で終わらせず、必ずかかりつけの動物病院を受診し、食事内容や与え方について相談しましょう。獣医師と相談しながら、その子に最適な食事内容や与え方を選んであげることが、健康維持へのいちばんの近道になります。

<参考文献>
一般社団法人ペットフード協会「ペットフードの種類」
(https://petfood.or.jp/knowledge/kind/)※2026年2月参照
ペットフード公正取引協議会「05.療法食について」
(https://pffta.org/basic/05.html)※2026年2月参照
一般財団法人獣医療法食評価センター「療法食ガイドライン」
(https://www.vdec.or.jp/guide.pdf)※2026年2月参照
公益社団法人日本獣医師会「療法食の適正使用に向けた課題と対応」
(https://jvma-vet.jp/about/projects/pdf/h25-ryouhousyoku.pdf)※2026年2月参照
藤井 立哉、「療法食を取り巻く規制と今後の課題」『ペット栄養学会誌』19(2):111-119(2016)
大木 富雄、「療法食の表示と薬事法」『ペット栄養学会誌』8(1-2):40-43(2005)
Cailin Heinze、「ペットとペットフード」Veterinary Focus vol.24 No.3(2015)、ROYAL CANIN

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